reset
もう終わりにしようかな。
終わりにしたいな。と思い出したのは きっと始まった時すぐにだった。
色々と誤魔化して、ありもしない可能性に 少し期待して
それらもほんとに現実とは遠い遠い世界で
夢は夢のままなのだと。
やっぱりそうだった。
あの暖炉の火を見ながら
この薪のように 燃えるだけ燃えたら灰になる。
このとんでもない値段のワインだって 飲み干せばなくなる。
靴を履いたら 。
車のドアを閉めたら。
アタシは あの場所に帰らなければならない。
アタシの欠片は消し去って。
送られてきた画像の笑顔に
もう何も心が動かなくなった。
K
君の胸に頬を近づけると
「僕はもう貴女じゃないとだめなんです」
そう声が聞こえたような気がした。
アタシの傲慢さからの空耳なのか
確かめようと君の顔を見上げると
君の目は天井の何処かを見つめていて
その唇はからっからに乾いていて
それがとても愛おしくて
ふいにキスをしたくなったの。
アタシと君との接点が極力無いようにと
どこも触れないように愛撫していたのに
(アタシはアタシの体内から出る吐息で君を愛でていた)
君の体温や湿り気をほんの数ミリの距離で感じてきたのに
(君はアタシの肌を感じ取ろうと大きく息をしてたね)
薄い唇は乾いたまま
舌先を触れることもなく こどものようにキスをして
君は少しも動くこともなくアタシのなすがままで その掌も上向きで ただ荒く息をしていた。
紅
たかがネイルと言うなかれ
彩られた爪が男の背越しにユラユラと揺れる様は なんとも淫靡で妖しく私は喘ぐのも忘れてうっとりしてしまう。
記憶
香りの強い煙草だ。
見た事もない銘柄。
吸うのではなくふかすのだよと君の唇が煙りを吐く。
すかさず 唇を重ねる。甘い味が私に移る。
ずっと前から こうしてやりたかった。
好きだからとかじゃなく
私が思ってた事を確かめたかっただけ。
ずぅっとむかしの出来事を。